日本の寒地,北海道の稲作 限界地帯 におけるもち米の米粒外観品質の年次間地域間差異とその発生要因(日语原文)
2022-09-27丹野
丹野 久
(日本水稲品質 ・食味研究会,日本 東京都中央区,104-0033)
キーワード:もち米粒外観品質;整粒歩合;年次間地域間差異;未ハゼ粒;キセニア粒;稲作限界地帯
北海道の糯品種の作付け圃場は,粳品種の花粉との交雑により粳性胚乳となるキセニア粒の発生を避けるため,粳品種作付け地域から離れた地域にもち団地を形成し[1],北海道の稲作地帯でも気象条件が厳しい稲作の限界地帯にある。そのため,北海道のもち米の作柄は気象条件の影響を受けやすく(図1),それに伴って米粒の外観品質も変動しやすい(図2)。
図1 北海道もち米における玄米収量と1等米比率の年次推移[1]
図2 北海道もち米における玄米収量と1等米比率との間の関係(1993—2003年)[1]
また,卸 ・外食加工業者が重要視する品質調査項目では整粒歩合があげられる[2]。さらに,北海道もち米を使用しない理由で,外観が悪いことがあげられており,求める改善方向でも,粒揃いを良くすることや変色米を少なくするなど,外観品質の改良があげられている(図3)。以上のように,もち米の米粒外観品質はその流通上きわめて重要であり,年次間と地域間の差異およびその発生要因を明らかにすることは,もち米品質の安定化を図るために必要である。
図3 北海道もち米を使用しない理由および求める改善方向(卸業者と外食 ・加工業へのアンケート調査,複数回答)[2]
一方,糯粒は収穫直後の高水分では半透明であるが,乾燥による低水分化とともに白濁する。これを「ハゼる(りょく化)」という。しかし,ごく一部の粒が乾燥後も白濁化せず(未ハゼ粒),粳粒との判別がつかない。生産者はそれをハゼさせるため,玄米検査規格の水分含有率を超えてさらに乾燥を行い,過乾燥のため胴割れ粒を発生させることがある。そこで,その未ハゼ粒の発生条件とその品質の特徴を知る必要がある[3-4]。
さらに,もち米への粳粒の混入は,それを原料とするもち米製品の品質を大きく低下させる。糯玄米の農産物検査では混入比率の最高限度が定められ,規格内の1,2,3等には混入の許容限度がそれぞれ1%,2%,3%以下とされている[5]。しかし,粳花粉が飛散し種子親の糯品種と交雑するとキセニア現象により胚乳が粳性の粒となり,この混入率が高くなると,もち米品質上の大きな問題となる。キセニア現象が発生した粒の頻度は,粳品種と糯品種の両圃場間の距離に反比例する[6]。また,冷害年で不稔発生が生じた条件では,明らかにキセニア粒の混入率が上昇することが報告されている[7]。そのため,不稔発生条件における隔離距離と粳花粉との交雑によるキセニア粒の発生率との間の関係を明らかにすることは重要である。
以上のことから,本報では,北海道のもち米の作柄が大きく異なった 2000—2003年に栽培6地域から糯品種「はくちょうもち」[8]を収集し,農産物検査の等級に関わる米粒外観品質,すなわち整粒,未熟粒,被害粒および着色粒の各発生率の年次間差異と地域間差異,および生育期別の気象,生育特性,精米蛋白質含有率(以下,蛋白質と記す),米粒白度との間の関係を明らかにし,品質改善のための知見を得た[9-10]。さらに,未ハゼ粒発生と乾燥過程すなわち米粒水分含有率との間の関係,および未ハゼ粒とハゼ粒との間の理化学的特性の差異を解明した[3]。また,糯品種の不稔発生条件下で,種子親の糯品種と花粉親の粳品種の両栽培圃場の間の隔離距離を従来になく長く600 mまでとし,同距離とキセニア粒発生率との関係を明らかにした[11]。
1 米粒外観品質,生育期別気象および生育特性の年次間地域間差異
年次間の最小値最大値の差異と変動係数は地域間との比で,整粒歩合はそれぞれ 1.4,1.6倍と年次間が地域間よりも大きく,未熟粒歩合が1.1,1.3倍とやや大きく,被害粒と着色粒歩合ではいずれも0.6倍と逆に小さかった(表1)。このように,米粒外観品質の間では最小値最大値の差異と変動係数の年次間と地域間との比で大きな違いが見られた。
一方,蛋白質での最小値最大値の差異と変動係数は年次間が地域間の1.0,1.3倍と同じかやや大きく,玄米白度と精米白度は 1.6~2.6倍と年次間が大きかった。さらに,生育期別気象では出穂後40日間の日積算日照時間は1.1~1.3倍と年次間がやや大きく,出穂前24日以降30日間(以下,障害型冷害危険期と記す)の平均気温および出穂後 40日間の日平均積算気温(以下,登熟気温と記す)は 3.8~8.5倍,また不稔歩合,千粒重および玄米収量の生育特性は1.3~1.8倍と,いずれも年次間が地域間よりも大きかった(表 1)。すなわち,生育期別気象は最小値最大値の差異と変動係数が年次間で地域間よりも大きいため,生育特性も同様に年次間が大きくなり,整粒歩合,未熟粒歩合,蛋白質および米粒白度も同じであった。
表1 北海道もち米の試験年次別と地域別における米粒外観品質,米粒白度,精米蛋白質含有率,生育期別気象および生育特性[10]
2 年次と地域の各平均値と変動係数との間の関係
整粒歩合は,いずれの年次とも幅広く分布した(図 4)。外観品質の年次と地域での各平均値と,年次では各年次に供試した6地域間の変動係数と,地域では各地域の4年次間の変動係数との間の関係をみると,整粒歩合では年次と地域ともに平均値が低いほど変動係数が大きく,被害粒と着色粒歩合では年次のみで平均値が高いほど変動係数が大きかった(表2,図5)。すなわち,玄米の農産物検査で重要な整粒歩合が低い年次や地域では,それぞれ地域間や年次間でも変動係数が大きく,外観品質を安定化するためには大きな問題であった。
表2 米粒外観品質における試験年次と地域の各平均値と変動係数との間の相関係数[10]
図4 整粒歩合の年次別頻度分布
図5 整粒歩合における平均値と変動係数との間の関係[10]
3 米粒外観品質,生育期別気象および生育特性の間の関係
年次間では,障害型冷害危険期の平均気温および登熟気温が高いほど,被害粒歩合,着色粒歩合および未熟粒歩合が低く,整粒歩合が高く,玄米白度と精米白度が高かった(表3,図6,図7,表4)。一方,年次と地域込みで,被害粒歩合と着色粒歩合はそれぞれ登熟気温が 845,857℃で最低となる2次回帰の関係があった(それぞれ図8,図9)。
表3 北海道もち米の年次間と地域間における米粒外観品質,米粒白度と生育期別気象との間の相関係数[10]
図6 出穂後40日間の日平均積算気温と整粒歩合との間の関係[9]
図7 出穂後40日間の日平均積算気温と未熟粒歩合との間の関係
図8 出穂後40日間の平均積算気温と被害粒歩合との間の関係
図9 出穂後40日間の日平均積算気温と着色粒歩合との間の関係
出穂後40日間の日積算日照時間は,年次間で米粒外観品質との間に登熟気温と同様な関係がみられる傾向があったが,着色粒歩合を除いて明確ではなかった。また,地域間ではこれら生育期別気象と外観品質との関係は明確な関係がなかった。
年次間では,整粒歩合は未熟粒歩合,被害粒歩合および着色粒歩合が低いほど高くなった(表4,図10)。また,不稔歩合が低く千粒重が重く多収なほど,整粒歩合が高く被害粒歩合および着色粒歩合が低くなり,蛋白質が低く玄米白度と精米白度が高くなった(表4,図11,図12)。なお,被害粒歩合と着色粒歩合との間の関係は,被害粒歩合が高くなるに伴い着色粒歩合も高くなり,原点をほぼ通る正の二次回帰であった(図13)。
表4 北海道もち米の年次間と地域間における米粒外観品質,米粒白度,精米蛋白質含有率および生育特性の間の相関係数[10]
续表4
図10 未熟粒歩合と整粒歩合との間の関係
図11 整粒歩合と精米白度との間の関係[10]
図12 被害粒歩合と精米白度との間の関係
図13 被害粒歩合と着色粒歩合との間の関係
一方,地域間ではこれらと同様な関係が見られたが,とくに未熟粒歩合と他の形質との関係が明確でなかった(表 4)。すなわち,項目1で述べたように,年次間に比べ地域間では生育期別気象,生育特性および整粒歩合,未熟粒歩合の最小値最大値の差異および変動係数が小さく,そのためそれら気象と外観品質との間の関係および未熟粒と他の外観品質や生育特性との間の関係が明確でなかった。
4 米粒外観品質を高める栽培法
登熟が進む,すなわち出穂から刈り取りまでの日平均積算気温(以下,出穂後積算気温と記す)が高くなるにつれて,青米が減少し玄米収量が高くなり被害粒と着色粒がともに増えてくる[12](図14)。また,整粒歩合は出穂後積算気温が高くなるほど増加するが,刈り取りの目安とされる整粒歩合80%となるための出穂後積算気温はほぼ 800 ℃であった(図 15)。以上のことから,整粒歩合を高めるためには,早植えや葉齢の大きな苗を移植することなどにより出穂を促進することで,登熟気温を十分に確保し,青未熟粒の発生を抑制する[12](図 7)。同時に,基準の栽植密度を守ることや側条施肥を行うことなどにより初期生育を促すことで出穂揃いを斉一化し,登熟の不揃いによる白未熟粒や青未熟粒の発生を抑制する。
図14 異なる収穫時期における出穂期から収穫期までの日平均積算気温と被害粒歩合との間の関係[4]
図15 異なる収穫時期における出穂期から収穫期までの日平均積算気温と整粒歩合との間の関係[4]
さらに,被害粒と着色粒の発生を最小限に抑えるために,玄米収量が高く同時に玄米外観品質を低下させない最適な刈り取り時期を,出穂後積算気温800 ℃を参考に決定し,それを厳守することが必要である。とくに,もち米ではうるち米に比べ玄米水分の低下が緩慢であるために,着色粒の一つである紅変米の発生による落等が多発することがあり,割籾の少ない品種を作付けし,刈り遅れを避けるとともに,収穫後は速やかに乾燥を行う必要がある[13]。
項目1で述べたように,被害粒や着色粒の発生は整粒や未熟粒と異なり,年次間差異よりも地域間差異が大きかった。しかし,その地域間差異の発生要因は,年次間差異が地域間差異よりも大きな生育期別気象や生育特性によるとは考えられない。一方,本項目で前述したように,被害粒歩合と着色粒歩合は出穂後積算気温が高くなる,すなわち収穫期が遅くなるにともない増加する。これらのことから,被害粒歩合と着色粒歩合において年次間差異よりも大きな地域間差異が生じる要因は,刈り取り適期から実際の刈り取り期までの長さにおける栽培管理上の地域間差異である可能性がある。
5 未ハゼ粒の発生
糯精米の乾燥過程における精米の水分含有率(以下,水分と記す)と半透明な未ハゼ粒の頻度との間の関係を調査した。糯精米の水分17%では 80%以上が未ハゼ粒だったが,玄米検査規格である水分15%では大部分が不透明化,すなわちハゼた。しかし,水分15%以下でも未ハゼ粒が見られ,最低 13.5%でも未ハゼ粒があった[3-4](図 16)。また,同じ水分でも未ハゼ粒とハゼ粒とが混在しており(図17),すなわち粒毎にハゼる境界水分が違うと考えられた。
図16 糯精米の試験乾燥過程における精米の水分含有率と未ハゼ粒の頻度[3]
図17 ハゼ粒と未ハゼ粒の水分含有率の頻度分布[3]
さらに,未ハゼ粒とハゼ粒との間における理化学的特性の違いを見たところ,同じ水分での両粒の間には蛋白質や澱粉含有率,澱粉粒の大きさ,および精製澱粉でのヨウ素吸収曲線の最大吸収波長とその吸光度にほぼ差が見られなかったため(表 5),理化学特性には差がほぼ無いと考えられた。また,未ハゼ粒精米の白度や明度はハゼ粒に明らかに劣っていたが,餅生地では明度に差異がみられなかった(表 5,表6)。餅生地の物理特性では,5 ℃24時間貯蔵後で未ハゼ粒はハゼ粒よりもやや柔らかい傾向があったが,その差異は小さかった(表6)。以上のことから,未ハゼ粒のもち米への混入は餅生地加工で問題とはならないと考えられた[14]。
表5 ハゼ粒と未ハゼ粒における精米の水分含有率,千粒重,白度および理化学的特性[3]
表6 ハゼ粒と未ハゼ粒における精米と餅生地の明度および5 ℃,2、24 h冷蔵後の餅生地での物理特性[14]
生産者は,糯玄米の農産物検査で粳粒の混入が落等要因とされるため,収穫後の乾燥によりできるだけハゼさせようとするので,玄米検査規格に定められた適正水分15%よりも玄米水分を低下させやすい。そのため,胴割粒や過乾燥米の発生が問題となるので,過乾燥とならないように生産者へ周知することが重要である。一方,糯玄米の農産物検査では,半透明な玄米粒での粳粒と糯粒の識別をヨウ素デンプン反応により行っており,検査等級の許容範囲を超えた粳粒が混入することは無い。しかし,実需者にとって,未ハゼ粒は糯粒であってもハゼ粒よりも米粒の白度や明度が低く,未ハゼ粒の混入したもち米の外観品質の評価は低くなりやすい。そのため,実需者には,未ハゼ粒の混入は外観上も含め餅生地加工では問題とはならないことを,十分に理解してもらう必要がある。
6 粳花粉との交雑によるキセニア粒の発生
異なる不稔歩合の種子親糯品種で,糯種子親と粳品種花粉親間の隔離距離と交雑発生との間の関係を明らかにするために,粳花粉親圃場から風下側に,2~600 m離して,糯種子親を設置した。種子親には,不稔発生を促進するため穂ばらみ期に冷水を処理した区と,隔離距離150~600 mには加えて無処理区も設定した。その結果,各隔離距離とも不稔歩合が低い無処理区に比べ不稔歩合が高い冷水処理区で交雑率が高く,また概して長距離ほど交雑率が低下した。しかし,冷水処理区では最長600 mでも交雑が認められた[11](表7,図18)。
図18 種子親の糯品種と花粉親の粳品種との間の隔離距離と交雑率との間の関係[11]
表7 隔離距離150~600 mにある種子親糯品種「はくちょうもち」と花粉親粳品種「ななつぼし」の出穂期、不稔歩合および花粉親品種別交雑粒数,交雑率[11]
このように,600 mの隔離距離を設けてもキセニア粒発生を防ぐことは出来なかった。その要因として,以下の4要因があげられた[6-7,11,15-16]。(1)種子親と花粉親の出穂始めから揃いまでの期間が重複する,(2)種子親は花粉親より不稔歩合が高く,その差異が大きい,(3)うるち花粉源の圃場面積が大きい,(4)開花期間の風向は花粉親から種子親への方向が占め,同方向の平均風速も大きい。
このため,同一の地域内で粳品種が栽培されている場合,とくに冷害年では糯品種でのキセニア粒の発生を防ぐことは難しいと思われる。北海道では,キセニア粒の混入による品質低下を避けるため,粳品種作付け地域から離して糯品種作付けに特化した地域,いわゆるもち団地を設けており[1],この制度により糯品種と粳品種の栽培圃場を大きく隔離している。