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日本の寒地,北海道におけるうるち米良食味育種(日文)

2020-12-08丹野

粮油食品科技 2020年6期
关键词:系統精米食味

丹野 久

(北海道農産協会,日本 北海道札幌,060-0004)

キーワード:良食味;寒地;アミロース含有率;育種

北海道は日本で新潟県と1,2位を争う米の収穫量を誇っている。しかし,日本で最北に位置するため気象条件が厳しく,稲作の歴史も東北以南に比べ短いため,「コシヒカリ」のような全国銘柄の良食味品種は生まれてこなかった。むしろ東京,神奈川,愛知などの大消費地で食味の評価が低く,1975—1980年頃には当時の米余りと相まって,北海道米の消費が減退する問題が生じた。

一方,良食味米を生産するためには,前報[1-2]で取り上げた良食味米生産技術および作付けされる良食味品種が必要である。そこで,北海道の水稲育種では,北海道立(現,北海道立総合研究機構 農業研究本部)の水稲育種担当の中央 ・ 上川 ・ 道南 ・ 北見農業試験場(以下,農業試験場は農試と記す)において,1980年から始まった「優良米の早期開発試験」以来の 4期28年間のプロジェクト(以下,優良米早期開発プロジェクトと記す)などにより,うるち良食味21品種を育成した(表1,図1)。

表1 1980年以降育成のうるち良食味21品種の中で主要および特徴的な9品種における育種年限短縮法への供試の有無および食味などの諸特性[3]

その結果,北海道米の食味水準の向上が達成され,東北以南の銘柄米品種と遜色が無くなった[4-5]。同プロジェクトでは実施時期により多少の違いがあるが,①育種年限の短縮,②育種規模の拡大,③食味関連分析値による食味選抜が主要な柱であった[6-7](図2)。本報では,同プロジェクトを中心にこれまでの北海道米の食味向上に関する育種の概要を説明する。

図1 北海道における1980年以降のうるち品種別作付け比率の推移[3]

図2 1980年から開始した北海道立農業試験場(現、北海道立総合研究機構 農業研究本部)における良食味米品種開発プロジェクトの試験構成の例[6-7]

1 良食味品種育成に向けた育種戦略

1.1 育種年限短縮

品種の成立要件の一つとして,特性が実用上固定していることがある。交配によって得た雑種集団は,初期には特性の分離が大きい未固定個体が多く,世代が進むにつれ主要な特性が固定した個体の頻度が高まる。そのため,1年1作栽培では交配から品種育成まで 10年は必要であった。そこで時代の要請に早期に応えるべく育種年限を短縮するため,世代促進栽培と葯培養法を取り入れた。

1.1.1 世代促進栽培

優良米早期開発プロジェクト開始前にも雑種第1代(F1)養成を冬季温室で行っていたが,その後のF2世代養成以降は中央農試のみで暖地(鹿児島県)での世代促進栽培(以下,世促)を行っていた。そこで,同プロジェクトに参画している全場で,鹿児島県で春季から秋季にかけF2とF3世代の世促を行うこととし,さらに一部の材料については引き続きF4世代を冬季の沖縄県で栽培を行った。F4世代を世促に含めた場合,育種年限は変わらないが,育種材料の固定度を高めることが出来る。これら温室F1養成を含めた世促により,従来は交配から優良品種決定まで最短で10年かかるのを8年にまで短縮できた(表2)。なお,2001年以降は,暖地利用の世促から,道南農試の大型温室により1年でF2,F3世代を栽培する世促に切り替えている。また,続いてF4世代を供試する1年3世代の世促は現在行っていない。

表2 標準,世代促進栽培および葯培養法における交配から新品種育成までの年数[8]

1.1.2 葯培養法

葯培養法では,夏に得た交配種子を冬季に播種,栽培したF1個体の葯を培養する。それにより花粉由来の半数体を得て,自然倍加で固定した系統を早期に得る。その後,2年目に夏季採種,冬季系統選抜を行い,翌3年目には生産力予備試験に供試する。そのため,交配から優良品種決定まで要する年数は7年である(表2)。一時中央農試でも行っていたが,主に上川農試のみで実施した。毎年100~120組合せの中から有望な3~5組合せを選んで供試した。なお,大きなコストと労力を要するため, 現在は維持することが困難となり中止している。

これら育種年限短縮の方法で,優良米早期開発プロジェクトで育成された 21品種のほとんどが育成された。すなわち,葯培養により育成されたのは5品種である。残り16品種の中で,冬季温室でのF1養成およびF2とF3世代の世促を経過した品種はいずれも13品種で,引き続きF4世代も世促を経過したのは 3品種であった(表1)。

1.2 良食味系統選抜

1.2.1 育種規模の拡大

当時困難と思われた良食味と早熟,耐冷性を同時に有する品種を育成するために,個体選抜試験や系統(1穂の種子で翌年 1系統とする穂別系統を含む)選抜試験の供試規模を大きくし,その出現確率を高めることを図った。

1.2.2 有用遺伝子活用の強化

良食味,食味に関係する低アミロースおよび耐冷性などの内外有用遺伝子を活用し,遺伝変異の拡大を行い,重要形質を具備した優良系統の育成を図った。また,このためにも育種規模の拡大を必要とした。

1.3 食味検定

1.3.1 食味特性分析

良食味品種を育成するためには食味による選抜を行わなければならない。しかし,炊飯米を食する食味官能試験を行ってもその供試点数は限定される。とくに,個体選抜試験や系統選抜試験などの初期世代では,供試材料数が多く,同時に1個体や1系統当たりの供試できる玄米サンプル量は少ない。

一方,優良米早期開発プロジェクト開始以前から,食味と関係が認められていた澱粉成分の一つのアミロ-ス含有率(以下,アミロースと記す)および精米蛋白質含有率(同蛋白)について(表3),北海道米が東北以南の良食味米に比べ高く(図 3,図4),改良の必要性があることが指摘されていたため[9],個体選抜や系統選抜には両含有率が低い個体,系統を選抜した[11](表4)。なお,系統選抜以降に炊飯米のテクスチャーをテクスチャーアナライザーで,炊飯米の外観を色彩色差計で測定し,補完的に選抜に使っている。

表3 北海道と東北以南の主要品種産米における食味関連特性とアミロース含有率および精米蛋白質含有率との相関係数(1969—1971,1980,1983年産米)[9]

実際,多数のサンプルを迅速に測定するために,アミロース分析用オートアナライザーや蛋白分析用近赤外分析計を全国に先駆けて導入し活用した。その分析のために必要なサンプル量は,調整作業も考慮すると,両含有率のいずれも玄米10g程度である。それら機器による分析点数の1例を示すと,2007年の上川農試では,両含有率はいずれも5,500点であった。さらに,同時に系統選抜試験おいて精米 10~100gの少量炊飯による食味選抜も350点を行った[12]。

図3 北海道と東北以南の産米におけるアミロース含有率の頻度分布の比較(1969~1971,1980,1983年産米)[9]

図4 北海道と東北以南の産米における精米蛋白質含有率の比較(1991~1996年産米)[10]

表4 北海道の水稲育種試験における食味の選抜 ・ 評価方法(◎は重点的,○は補完的に使用,道総研上川農業試験場による)[8]

1.3.2 食味総合評価

生産力(収量)試験以降は,供試系統数も限られ,玄米サンプルも十分得られることから,精米200~750gを供試した食味官能試験を中心として評価を行っている。さらに,老化性をラピッドビスコアナライザーの糊化特性により測定し,食味評価への活用を図っている(表 4)また,品種育成最後の奨励品種決定試験では,米卸業者などの実需者による評価も得ている。

2 導入良食味遺伝子から見た育成経過

2.1 道内良食味遺伝子の集積

優良米早期開発プロジェクトの開始以前では,北海道米は東北以南の米に比べ食味が明らかに劣っていた。これを改善するため,アミロースの低下を重視し,選抜を行ってきた結果,「粘り」が改善され,食味が大きく向上した。同時に,蛋白も食味に大きく影響するため,低い系統を選抜した。その結果,「巴まさり」などの道内良食味品種を改良して 1984年に育成された「ゆきひかり」等が開発された[13](図5,図6)。

図5 北海道品種が有する良食遺伝子の集積により育成された「ゆきひかり」の系譜[13]

2.2 「コシヒカリ」の良食味遺伝子の導入

その後,「コシヒカリ」を片親に持つ「コシホマレ」を母本にして「しまひかり」が1981年に育成された。さらに「しまひかり」を母本にして1988年に育成された「きらら397」[14](図6、図7)は,それ以前の北海道米にはない良食味性を備え,精力的な販売戦略もあって,北海道で初めての良食味米として全国区のブランド米になった。同品種は,現在となっては耐冷性がやや劣るが,収量の安定性にも優れており,現在まで長期間にわたり全道で広く作付けされている。さらに,「きらら397」の欠点である耐冷性を向上させ,「コシヒカリ」を片親に持つ東北品種「あきたこまち」を良食味の母本に使い,「ほしのゆめ」を1996年に育成した[15](図6、図 7)。

図7 「コシヒカリ」の良食味遺伝子を北海道品種「しまひかり」を通し導入して育成された「きらら397」および「あきたこまち」の良食味遺伝子を導入して育成された「ほしのゆめ」の系譜[14-15]

アミロースは登熟温度と正の相関関係にあり,年次変動が大きいため正確な数字を示すことは困難であるが,「ゆきひかり」育成以前の多肥多収品種「イシカリ」などの22%から「きらら 397」「ほしのゆめ」の 20%まで,2%程度が低下したと思われる(図8)。しかし,東北以南に比べ北海道は登熟温度が低いため,「きらら397」「ほしのゆめ」でもアミロースがやや高かった。また,同一の登熟温度条件では北海道旧来の良食味品種と東北以南の良食味銘柄米品種との間にはアミロースに差が認められなかったとの報告もあり[16](表5),東北以南の良食味品種を母本とした育種ではさらなる低下は難しいと考えられた。

図8 北海道の新旧品種と東北以南の良食味銘柄米品種における精米蛋白質含有率とアミロース含有率との間の関係(道総研 上川農業試験場による)[3]

2.3 低アミロース遺伝子の活用

一方,アミロースをさらに低下させる方法の一つとして,従来の日本の一般うるち品種にはない低アミロース遺伝子を導入する試みが行われた。すなわち,「ニホンマサリ」にガンマー線を照射して開発された低アミロース系統「NM391」の遺伝子を導入して,1991年に「彩」[17],2001年に「あやひめ」[18]が育成された(図9)。これらは,アミロースが「きらら 397」など一般粳品種のほぼ半分の10~12%であり,かなり粘りが強く柔らかいため,主に一般うるち米とのブレンド米としての活用が図られた。

表5 圃場および人工気象箱の同一温度条件で登熟した場合での旧来の北海道良食味品種と東北以南の良食味銘柄米品種の食味特性[16]

図9 「NM391」の低アミロース突然変異遺伝子を導入して育成された「彩」と「あやひめ」の系譜[17-18]

また,2001,2003年には「国宝ローズ」の良食味性を導入した北海道育成系統を母本として,各「ななつぼし」[19]と「ふっくりんこ」[20]が開発された(図10)。「ななつぼし」は「きらら397」,「ほしのゆめ」よりもアミロースが1%程度低下した(図8)。さらに,蛋白については,それまでアミロースほど顕著な改善は得られていなかったが,「ふっくりんこ」は従来品種に比べ蛋白もやや低下した。これら品種の育成により,北海道米に対する流通 ・ 実需関係者や消費者の食味評価はさらに高まった。

図10 「国宝ローズ」の良食味遺伝子を導入して育成された「ななつぼし」と「ふっくりんこ」の系譜[19-20]

その後,優良米早期開発プロジェクトの成果ではないが,「きらら397」の培養変異による低アミロース系統「北海287号」を母本として,「おぼろづき」が2003年に育成された[21](図6、図11)。「おぼろづき」はアミロースが14~15%程度で,単品で利用できる低アミロース品種であった。また,同じ「北海287号」を遺伝資源に利用しアミロースが「おぼろづき」よりも 1%程度高く,栽培特性が改善された「ゆめぴりか」が,2008年に育成された[22](図6、図11)。両品種とも「つや」,「粘り」および「柔らかさ」に優れており,食味のポテンシャルとしては「コシヒカリ」に並ぶと評価されている。

図11 培養突然変異系統「北海287号」の低アミロース遺伝子を導入して育成された「おぼろづき」と「ゆめぴりか」[21-22]

以上のように,北海道内、東北以南およびアメリカの「国宝ローズ」からの良食味遺伝子や突然変異による低アミロース遺伝子を利用して、主に炊飯米の粘りや柔らかさを向上させて食味を向上させてきた(表6)。しかし、これら「北海287号」および,とくにアミロースが低い「NM391」の低アミロース遺伝子を有する品種は,食味官能試験で「粘り」や「柔らかさ」がかなり高評価となるものの,「総合評価」ではそれらの評価値よりも低くなることが認められた(表6,図12)。すなわち,一定程度を越えた「粘り」と「柔らかさ」は必ずしも好まれないことが明らかとなった。また,両低アミロース遺伝子を有する品種は,登熟期間の平均気温1 ℃の上昇に対するアミロースの低下が他の品種に比べ大きく,変動が大きいことが認められた[22-23](表 7)。

表6 育成良食味品種の食味官能試験における「粘り」,「柔らかさ」と「総合評価」値の比較(食味基準品種はいずれも一般うるち米品種)[13-14,17-22]

図12 アミロース含有率と食味官能試験における「粘り」,「柔らかさ」と「総合評価」値の差異との間の関係[13-15,17-22]

3 今後の良食味育種戦略

以上のように,本プロジェクトの成果によりアミロースは 1980年代以降大きく低下した(図13)一方,蛋白は新品種育成により明確な低下は見られなかったものの(図 14),食味評価は大きく向上し,東北以南の良食味銘柄米品種と同等の食味になった[4-5,25-26](図15)。

表7 登熟期間における日平均気温の平均1 ℃あたりのアミロース含有率の変動(Δ AM,%/℃)[22]

図13 北海道の新旧品種における育成年次とアミロース含有率との関係[10,24-25]

図14 北海道の新旧品種における育成年次と精米蛋白質含有率との関係[10,24-25]

図15 北海道の新旧品種および東北以南の良食味銘柄米品種における食味官能総合値の比較[26]

食味のさらなる向上には,蛋白とアミロースを低下させることが重要であるが(図 16),アミロースについては,「粘り」や「柔らかさ」のバランスを考慮した場合,これ以上の低下は望ましくなく,「ななつぼし」と「ゆめぴりか」の中間の値を有し(図8),産地や年次による変動が小さい品種の開発を目指している[12,23]。そのため,現在,「国宝ローズ」由来の育成系統の活用が考えられている。蛋白についても,「国宝ローズ」由来の育成系統等を遺伝資源に利用して,0.5~1%程度の低減が試みられている(上川農試による)[8,12]。さらに,「外観」や「つや」,冷めてもおいしく感じる「米飯老化性」を改良するために,これら特性を育種現場で高い効率と精度で測定する方法の開発が必要である。また,いわゆる「味」や「香り」などに関する特性も機器分析できるように基礎的な研究を続けていく必要がある。

図16 アミロース含有率,精米蛋白質含有率および食味官能総合値との間の関係[4]

備考:

1. 参考文献の中で、国家を明記するジャーナル以外、その他はすべて日本語のジャーナルである。

2. 本論文のカラーグラフは本誌のHPサイト(http://lyspkj.ijurnal.cn/ch/index.axpx)、中国知網、万方、唯普、超星などのデータベースをダウンロードして取得できる。

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